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2020.09.09
福隆美術工芸の買い取りでは「対面鑑定」をモットーとしています。お客様と鑑定士が直接顔を見せ合ってお話しすることが、最終的にお客様が後悔しない決断をするための近道になると考えているからです。
では、具体的にはどのような手順で買い取りが進んでいくのでしょうか。二代目当主の綱取譲一(つなとり じょういち)さんに、過去にあった買い取りのケースとともに聞きました。
――刀剣類の買い取りはどんな風に行われるのか、詳しく教えてください。
綱取:まずはお電話でご相談ください。よくある状況として、たとえば先代のおじいさんがお亡くなりになって、遺品整理をしていたら刀剣が出てきた……というようなケースが多いです。
最初の電話では、刀剣と一緒に保管されている「銃砲刀剣類登録証」(以下、登録証)の有無を確認します。登録証には刀剣、脇差、なぎなた、短刀といった「種別」が書かれているため、その内容と照らし合わせながら、それが該当の品物に対応した登録証であるかをチェックします。
この登録証がないと、刀剣類は所持も売買もできないと法律で定められています。探しても見つからないときには、ご相談の前に必ず最寄りの警察署などに届出をしてください。
――登録証に問題がなければ、次のステップは何でしょうか。
綱取:さっそく鑑定に入ります。近郊にお住まいの場合、できればご来店での持ち込みをおすすめしています。取引をするうえでは、まずお客様に私たちが何者であるかを知っていただいて、信頼に足る店かどうかをご判断いただきたいからです。
もちろん、お客様が遠方にお住まいであるとか、品物が多くて運べないといった事情があれば、無理に来店のお願いはしません。その場合、私たちがお客様のご自宅までお伺いします。先日は宮城県まで出張鑑定に出かけて買い取りを行いました。
――対面鑑定にこだわるのはなぜですか。
綱取:今のところ、当店では基本的に「対面鑑定のみ」とさせていただいています。理由はシンプルで、お客様のお顔を見てやりとりさせていただきたいからです。
なぜそれが必要かというと、「刀剣類を手放す」という行為はお客様にとって、単に物を処分するだけではない、もっと複雑な心情が絡んでくるケースが多々あります。たとえば、先祖代々受け継いできた日本刀を売ることにしたとか、おじいさんが生前に集めていたコレクションを売るといった場合、お客様の中に多少の「迷い」が生まれることがあるのです。
「売ると決めたけど、本当にいいのかな。やっぱり止めようかな……」という心境の変化は、大切なご親族のお品である以上、あって当然のことです。後になってご家族の誰かが反対されるケースもあります。
そうした状況を踏まえて、お客様にとって最適な選択肢をご提案するのも、私たちの役目だと考えています。最終的に売るとしても、残すとしても、お客様に心から納得して決めていただきたいのです。
――鑑定をお願いした後、やっぱり売るのをやめてもいいのでしょうか。
綱取:もちろん問題はありません。売却をやめても、鑑定料金を請求することはないのでご安心ください。
過去にあったケースでは、横浜からのお客様で、おばあさんのご実家で見つかったという刀剣の鐔(つば)と金具の一式を持ち込んでくださった方がいらっしゃいました。銘を見ると、決して有名な金工(金属細工の職人)ではないものの、その地方独特の意匠が施されています。参考資料としてとても興味深く、お客様には正直に「これは面白いものですね!」とお伝えしました。
そんな会話をしつつ、最後に鑑定金額をお伝えしたところ、お客様は急にがっかりした表情をされました。お話を聞くと、「あんなに褒めていたのに、値段は高くないですね」と。しかしこのお客様は、その瞬間にぱっと気持ちを切り替えて「それなら売るのはやめて、我が家で大切に飾ることにします」とおっしゃったのです。
店の立場としては、もちろん売っていただかないと利益になりません。でも私は一人の鑑定士として、このお客様のご判断がとてもうれしかった。つい先ほどまで手放そうとされていた品物に対して、私の話を聞いてあらためて価値を感じ、ふたたび「持ち主」として目覚めてくださったのです。
このお客様には、「大切に飾っておくための箱を作りませんか」とご提案しました。その後、鐔と金具がきれいに並べられる木箱を職人さんに依頼して、大変ご満足いただきました。こうしたやりとりは対面鑑定ならではの良さだと感じています。
――鑑定後の事例として、他にはどんなものがありますか。
綱取:お持ちの品物が「贋作(がんさく)」であることもあります。たとえば「長曽祢興里入道虎徹(ながそね おきさとにゅうどう こてつ)」という江戸時代の刀工がいます。いわゆる「虎徹(こてつ)」と呼ばれる彼の作品は、天下の名刀として知られています。今でもあちこちで虎徹が発見されるものの、本物が出てくることはめったにありません。
しかし一般の方はそこまでの事情を知りません。ご自宅にあった刀に「虎徹」の銘を見つけて、本物に違いないと期待をふくらませて店に持ち込まれるのです。こちらの説明の仕方によっては、お客様をひどく落胆させることになってしまいます。
私の場合、初めにこの刀が江戸時代のものであることをお伝えします。「数百年も前に作られた刀が今ここに存在するのは、とても尊いことです」と前置きしたうえで、虎徹は誰もが知る名刀であること、名刀ゆえに偽物も多いことを説明して、残念ながらこの刀が本物でないことをご理解いただく形です。
たとえ有名な刀ではなかったとしても、お客様と日本刀との出合いがあったのは紛れもない事実です。そこにほんの少しでも価値を感じていただければと願っています。
――保存状態が悪くて刀がサビていたり、欠けがあったり、部品がなくなっていたりした場合も買い取っていただけるのでしょうか。
綱取:まずは状態を確認させていただきますので、お気軽にご相談ください。破損や欠損については、修理して蘇ることもあれば、そのマイナス分を補って余りある価値を持つ品であることもあります。あとは、なくなった部品は意外と近くに転がっていたりするので、よく探されてみてくださいね。
――買い取った品物は、すぐに店頭に並んで販売されるのですか。
綱取:骨董屋にもいろいろなスタイルがありますが、当店の場合、店頭に並べている品物が非常に少ないのが特徴です。初めて訪れたお客様は「これしか置いていないの?」と驚かれるかもしれません。実は在庫のほとんどを奥にしまい込んで、普段は見えないようにしているのです。
これは何より、「大事にしてくださる方の元に品物を届けたい」という思いからです。だからお買い物に来たお客様とは、まずは少しお話ししてご希望を伺います。この方が欲しがっているのはこういうもので、うちにはこれがあるけれど、果たして大事にしてもらえるだろうか? ……そんなことを考えながら、お客様にぴったりだと思うお品をお出しします。
――具体的にはどういう人たちが買っていかれるのでしょうか?
綱取:コレクションとして飾っておく愛好家の方もいれば、古武道で実際に使用する方、絵を描くときのモチーフにする方、研究資料にする方など、楽しみ方は人それぞれです。どんな形であれ、古美術品を「愛でる」ことに対して情熱を持つ方々ですね。そういったお客様に出会えた時は、私もうれしくてどんどん品物をお見せしてしまいます(笑)。
お店にある古美術品はすべて、以前の持ち主の方から譲り受けた大切なお品です。私たちには「きちんと次の方にお渡しする」という責任があります。またそうすることで、次の世代へと古美術品が受け継がれていくと信じています。
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